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プロゴルファー

こせきよういち

ザ・コンセッション~世界のゴルフ界の面白情報を拾い読み#205

今週は世界ゴルフ選手権(WGC)の第1戦「ワークデイ選手権」が開催されています。

会場はフロリダ州のザ・コンセッションGC。大きな競技は初めてですが、WGC開催に相応しいクオリティのゴルフコースと言われています。

「コンセッション(concession)」は「容認」「譲る」といった意味ですが、クラブ名になった由来は今週何度か耳目に触れていることと思います。

なかなかいい話なので、ここでも改めて紹介しましょう。

ライダーカップの行方は2人の対戦の結果に

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舞台は、イングランドのロイヤル・バークデイルで開催された1969年のライダーカップ(当時はまだイギリスとアメリカのプロ対抗戦)。

当時の力関係はアメリカの圧倒的な優位で、59年大会から5連覇中でした。

しかし、この年は最終日の午前中のシングルス8マッチを終えたところで、イギリスが13対11で2ポイントのリード。12年ぶりのカップ奪回の可能性が出てきました。

イギリスのエースはトニー・ジャクリン(上掲写真の左)。

2ヶ月前に行われた全英オープンで、イギリス人として18年ぶりに大会を制した25歳の若きヒーローです。

一方のアメリカのエースはジャック・ニクラウス(写真右)。

3年前の66年全英オープンに勝ち、すでにキャリアグランドスラムを達成した29歳のスーパースターです。

勝負を決する午後のシングルス8マッチは、やはり地力に勝るアメリカが追い上げ、第7マッチを終えたところでタイにもつれ込みます。

ライダーカップの行方は、互いのエース=ジャクリンとニクラウスによる第8マッチで決まることになりました。

ゴルフ史上最高のスポーツマンシップ

ところがこの2人の対戦も、17番パー5でジャクリンが長いイーグルパットを沈めてオールスクエアの展開に。

上掲のYouTube動画はそのシーンから始まります(それに続いて、第7マッチでイギリスのブライアン・ハゲットがアメリカの名手ビリー・キャスパーを相手にオールスクエアでマッチを終え、重圧からの解放に男泣きする姿がアップされています。それほどイギリスチームにとっては、何としても負けられないライダーカップだったのです)。

そして、迎えた最終18番パー4。その模様は上の動画を見てもらうのが一番ですが、先にタフなパーパットを沈めたニクラウスが、次に取った行動が「ゴルフ史上最高のスポーツマンシップ」と評される「ザ・コンセッション」でした。

「あの状況の中、君にあのパットを打たせたくなかった」

残るジャクリンのパーパットはわずか60センチほど。普段であれば、ほぼ確実にカップインできる距離です。

しかし、この時の状況は「沈めれば、引き分け。外せば、アメリカに6連覇を献上する屈辱」。

その決着のパット。

ところが、ニクラウスはジャクリンのパーパットをコンシード。ジャクリンにタフなパーパットを打たすことなく、2人のマッチをオールスクエアで終わらせたのです。

なぜ?

ニクラウスはジャクリンにこう語ったと伝えられています。

「君があのパットを外すことはありえないと思ったけど、あの状況の中、君にあのパットを打たせたくなかったんだ」

全英オープンチャンピオンとして、地元の期待を一身に背負うジャクリン。もし、外せばその名声は失墜するかも知れません。

実は、彼らはすでに親友で、ジャクリンがニクラウスのフロリダの自宅を訪ねて休日を一緒に過ごしたこともあったそうです。

こうして、この年のライダーカップは史上初の引き分け。アメリカは引き分けでカップを防衛したのですが、ニクラウスが取った行動にはチーム内からも「不満」の声が挙がりました。

しかし、後年評価が見直され「ザ・コンセッション」と称賛されるようになります。

そして、ニクラウスの「スポーツマンシップと友情、卓越した人間性」を讃える意味も込めて造られたのが今週の舞台=ニクラウスとジャクリンが共同設計した「ザ・コンセッションGC」なのです。