プロゴルファー
こせきよういち
私も、シンデレラ!~世界のゴルフ界の面白情報を拾い読み#179
先週開催の女子メジャー「全英女子オープン」では、昨年の渋野日向子に続いて、ソフィア・ポポフという、まさしく「シンデレラ」と呼ぶに相応しいチャンピオンが誕生しました。
ポポフは米ツアーはおろか、下部のシメトラツアーでも優勝経験のないプレーヤー。世界ランキング304位の“名もない”存在でした。
その彼女に、この夏、転機がやってきます
米ツアー再開後、第2戦の「マラソン・クラシック」は、コロナ禍の影響で韓国選手をはじめ多くの上位選手が欠場。そのため、彼女に出場権が回ってきたのです。
そこで9位の好成績を挙げ、全英女子オープンの出場資格を獲得。
ところが、シメトラツアーを主戦場とする彼女は、同ツアーで成績を上げようと直前の大会(8月14日~16日)に出場。それから慌ただしく大西洋を渡ってスコットランドに乗り込みます。
「先週シメトラツアーに出たことについては、みんなに頭がおかしいと言われました。でも、そこで2位になって、自分のゴルフの調子がすごく良いと思ったの」
そして、やってみたら見事な優勝。
「なんと言っていいのかわかりません。ここまでたくさんのハードワークがありました。特にこの6年間は体のこともあったわ。でも自分には、やれる力があるはずと思っていました」
彼女は一時期「ライム病」に罹患(りかん)。慢性的な痛みに長年悩まされながら、なかかな原因がわからず、体重が13キロも減ったことがあったそうです。
「去年はゴルフをやめようと思ったけど、でもやめなくて良かった」と満面の笑み。
彼女のゴルフ人生は、まさに「シンデレラ・ストーリー」です。
シンデレラボーイ誕生!
メジャーで生まれた一番の「シンデレラ」といえば、2003年の全英オープンを制したベン・カーティスでしょう。
勝った時の彼の世界ランキングは、メジャー優勝者歴代最下位の396位でした。
カーティスは、その年、QTから米ツアーに昇格したルーキー。しかし、成績はパッとせず、6月まで12試合に出場し、予選落ちが5試合。最高位が27位という惨憺(さんたん)たるありさま。
ところが、7月最初の試合、全英オープンの予選会も兼ねたウエスタンオープンで13位なると、上位選手の多くが有資格者だったために、彼のもとに出場権が回ってきました。
そこで彼は、フィアンセのキャンディスさんを伴って、ちょっと早めの「新婚旅行」気分でイギリスへ。
すると、ノーマークの気安さか、最終日も中盤まで絶好調。だが、優勝を意識した終盤はプレッシャーに押しつぶされてボロボロに。
それでも、周りも同様にスコアを落とす展開となり、最終的に優勝が転がり込んだのでした。
この優勝に、メディアには「シンデレラボーイ誕生」の見出しが躍っていました。
一瞬の輝きを見せたシンデレラ
2003年は、全英オープンの直後にもうひとりのシンデレラが誕生しました。
世界ランキング169位で全米プロを制したショーン・ミキールです(メジャー歴代、下から2番目の優勝者ランキング)。
また、この時の米ツアーのランキングはシード権(125位)に遠く及ばない164位。メジャー史上最大の「アンダードッグ」(大穴)。よもやの優勝者のひとりと言われています。
そして、ミキールの米ツアー優勝はこのメジャー1勝だけ。まさに、メジャーで一瞬輝いた「シンデレラ」です。
同様のプレーヤーには、1999年全英オープン優勝のポール・ロウリー、2005年全米オープン優勝のマイケル・キャンベル、2000年全英オープン優勝のルイ・ウーストハイゼンなどがいます。
でも、最後のウーストハイゼンはいまもトッププロとして活躍しており、いつ優勝しても不思議ではない実力選手です。
ド派手なシンデレラ
先の二人は地味なシンデレラ。それとは対照的な、ド派手なシンデレラといえばこの人。1991年の全米プロを制したジョン・デイリーです。
この年ルーキーのデイリーは、そこまで24試合に出場し、11試合で予選落ち。全米プロの直前も2試合連続予選落ちという不振。
全米プロの出場権は、補欠の9番目でした。そのため、彼は出場を諦め、アーカンソーの自宅へ。
ところが、開幕の前日、メジャーチャンピオンのニック・プライスが、奥さんの出産が迫ったために急きょ欠場。出場権が彼のところへ舞い降りてきたのです。
デイリーは急ぎインディアナ州の会場まで、徹夜で車を飛ばしました。そして、練習ラウンドを一度もせぬまま、スタートティーへ。
幸い、ニック・プライスが契約するベテランキャディの「スウィーキー」ことジェフ・メドレンがサポートしてくれたためため、持ち前のビッグドライブをいかんなく発揮。
2日目にトップに立つと、そのまま意外にも安定したゴルフを続け、優勝を決めたのでした。
「シンデレラ」と呼ぶにはかなりの乱暴者、暴れん坊ですが、それが人気を集め、その人気はいまも変わりません。