プロゴルファー
こせきよういち
トム・ワトソンとクラレットジャグ~世界のゴルフ界の面白情報を拾い読み#131
今週は全英オープン。トム・ワトソンはこの大会を5度制しています(1975、77、80、82、83年)。
つまり、クラレットジャグと呼ばれる優勝杯を5度手にしたわけですが、ワトソンとこのクラレットジャグにはちょっと面白い因縁があるので紹介しましょう。
誤って授与されたオリジナルを誤って……。
クラレットジャグに関する歴史、逸話をネット検索すると、面白く興味深い話にいくつも出会うことができます(下記リンク先参照)。
そもそもこのジャグは、チャンピオンベルトに代わって1873年から優勝者に授与(翌年にR&Aに返還)されるようになったのですが、紛失などのリスクを考慮し、1928年からは優勝者にはレプリカが渡されています。
オリジナルは表彰式の間、優勝者に手渡されるだけで、いつもは基本的にR&Aゴルフクラブのクラブハウスに展示されています。
ところが、1982年のこと、R&Aは間違ってレプリカではなく、オリジナルをワトソンに預けてしまいます。
すると、ワトソンは室内での素振りの練習中、あろうことか机の上にあったそのオリジナルに誤ってクラブをぶつけ、机の上から叩き落し、凹ませてしまったのです。
この記事には「一部が凹んだ」とだけありますが、別のメディアには「一目で分かるくらいのシリアスな凹み」ができたという記述があります。
さぞや冷や汗が……。
でも、ワトソンは手先が器用なんでしょう、自宅地下の作業場で万力などを使って元通りに直したというのです。
まったく、やれやれです。
表彰式で台座から外れる
翌83年、ワトソンは連覇を果たします。
表彰式ではオリジナル、つまり自分が凹まし、そして修理したクラレットジャグと再会します。
ところが、ここでまたトラブル。
上掲写真でも分かるように、ジャグ本体が台座から外れてしまったのです。これは全英オープン史上に残る有名な逸話ですね。
ここでもワトソンは冷や汗ものだったに違いありません。
彼はクラレットジャグを両手でしっかりと抱え、ジャグと台座が離れないように苦労しながら、ファンやカメラマンに向かって笑顔を見せます。
しかし、それにも限界がありました。最後には下掲写真のように、すっきりとジャグだけ持って高々と掲げたのでした。
やれやれ。
危うく(?)、再度ワトソンの手に
オリジナルのクラレットジャグにとってトム・ワトソンは天敵か?
ワトソンの全英オープン制覇は83年が最後になりましたが、2009年に危うく(?)、再度ワトソンの手に渡りかけたことがありました。
勝負が、スチュワート・シンクとのプレーオフにまでもつれたのです。
このときワトソンは59歳。体力的に限界でした。
結局は、シンクが手にするクラレットジャグをそばから見つめるだけに終わってしまいます。
多くのゴルフファンが落胆した大会ですが、当のクラレットジャグは、「良かった~。トムに壊されないで済んだ」と、内心ホッとしていたのかも知れません。