ライフスタイル
こせきよういち
人は戦時下でもゴルフを楽しむ~世界のゴルフ界の面白情報を拾い読み#85
8月15日は「終戦の日」。各メディアが先の大戦を振り返り、同じ過ちを繰り返さないという思いをあらたにしています。
同大戦中は、先週開催の全米プロを含め、すべてのメジャートーナメントが開催中止を余儀なくされました。
全米プロは1943年(昭和18年)、全米オープンは42年~45年(昭和17年~20年)、全英オープンは40年~45年(昭和15年~20年)の間がそれぞれ中止。
マスターズも43年~45年(昭和18年~20年)の3年間はトーナメントの開催を見送りました。
上掲の画像は、当時オーガスタ・ナショナルが軍関係者にコースを開放した様子を伝えるものです。
でも、この頃、ほとんどいなくなったゴルファーに代わってコースを占有していたのは、牛と七面鳥でした(下記リンク先の画像を参照)。
伸び放題の芝を食べたり、肥料となるフンをして、コース管理に役立ったからです。
一方イギリスでは、同じ頃、ドイツ軍の脅威が間近に迫り、ゴルフどころではなかったはずです。
ですが、そんなときでもプレーをあきらめないゴルファーたちの姿がありました。
空襲にも笑えるローカルルールで対応
1940年(昭和15年)、イギリスはドイツ軍の攻撃に圧倒され、ロンドンはもちろん周辺の主要都市も爆撃機による空襲にさらされていました。
ロンドン近郊にあるリッチモンド・ゴルフクラブも、同年秋に爆弾を落とされ、クラブ内の洗濯施設が被弾してしまいました。
ゴルフ場も、もはや安全ではありません。
クラブ側は、コースが被弾した場合の対応も真剣に考えざるを得なくなりました。
そして、作られたのが上掲画像にある暫定のローカルルールです。
しかし、その内容というのが……。さすが“ユーモアの国”です。
全7項目のローカルルールは、
1.芝刈り機の破損の原因になるので、プレーヤーの皆さんは、爆弾や榴弾の破片は拾ってください。
2.競技中に銃弾や爆弾が降って来た場合、プレーヤーは無罰で競技を中断し、避難することができる。
3.時限式の爆弾が落とされた場合は、十分に安全と思われる距離を取って赤旗でマークするが、安全の保証はできない。
4.フェアウェイ上、及びバンカー内の1クラブレングス以内にある、爆弾の破片は無罰で取り除くことができる。その際に誤ってボールを動かしても、罰はない。
5.敵の攻撃でボールが動いた場合はリプレースすることができる。もしも、ボールが紛失あるいは破壊されたときは、無罰で、ホールに近づかない、もっとも近いと思われる地点にドロップすることができる。
6.爆撃でできたクレーター(下掲の画像)内にボールが止まった場合は、ボールとホールを結んだ後方線上にドロップすることができる。
7.ストロークするのと同時に落ちてきた爆弾によってショットが乱れた場合は、1罰打の付加で、同じ地点から打ち直すことができる。
持ち前のユーモアとジョンブル魂
いかがです? 「おい、おいっ!」と突っ込みを入れたくなるローカルルールばかりでしょう?
でも、実際にこれがプレーヤーに採用されたのでしょうか。
厳しい戦況下でも、イギリス人が誇る「ユーモアの精神」と「不屈のジョンブル魂」で敵に屈しない姿勢を見せるために作られたものでは?
つまり、「ドイツ軍の攻撃なんて、ちっとも怖くはないぜ」という姿勢の表明です。
だからでしょう。このローカルルールを耳にしたドイツのゲッべルス(宣伝担当相)は、カチンと来たのでしょう、イギリス向けの放送で、
「イギリスの気取り屋たちは、こうしたばかばかしいローカルルールを作って、いかにもヒーローらしくふるまっている。しかし、そもそも彼らは何だって言えるんだ。なぜなら、皆知っているとおり、ドイツ空軍は軍事施設に限って攻撃しており、彼らは安全だからだ」
と語ったそうです。
これに対して、リッチモンドGC側は(ホームページにある、このエピソードを紹介するページのなかで)
「ということは、我々の洗濯施設は彼らの軍事目標だったのだ」
とやり返しています。実際に、当時もそんな抗弁が語られていたのだと思います。
スコットランドでは15世紀に国王=ジェームズ2世により「ゴルフ禁止令」が発布されましたが、かの国のゴルファーたちはそれでもゴルフをあきらめませんでした。
「敵国の空襲ごときで……」
イギリスのゴルファーには、そんなたくましい伝統があるのでしょう。