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Gridge編集部
アジア初開催「USGAイノベーション・シンポジウム」で語られたこと
ごきげんよう、Gridge編集部のヒッティです。
去る2019年3月12・13日、東京でUSGA(全米ゴルフ協会)のイノベーション・シンポジウムが行われました。第5回となる今回のシンポジウムがアジアで開催されるのは初めて。
アメリカ、イギリスをはじめ、世界各国から約40名の有識者を招き各テーマの発表を行いました。
全容はJGA・USGAの公式YouTubeでライブ動画のアーカイブを観ることができますが、2日間にわたるプログラムの一部をまとめました。
目次
USGAイノベーション・シンポジウムの目的
中国やアフリカなどではゴルフ場の建設が進んでおり、世界的にはゴルフ人口が増えているというデータもあります。
しかし国別に見ると、すでにゴルフが普及しているヨーロッパ、アメリカ、日本などではゴルフ人口の減少が問題になっています。
特に日本のゴルフ市場はアメリカに次ぐ大きさで、ゴルフ場の数も1位アメリカ・2位イギリスに次いで3位にもかかわらず、バブル後のGDPの減少や少子高齢化も重なり、産業全体が危機的状況にあります。
(写真はMCのエリック・アンダース・ラング氏と岩瀬惠子氏)
そんな背景のもと開催された今回のシンポジウムの目的。
それはUSGA・JGAが協力して、ゴルフ産業に新しい思考をもたらすこと、また持続可能性(サステナビリティ)を模索することにあります。
ゴルフ施設側の生産性や効率を上げること、ゴルファー側の満足度を高め、持続的にゴルフをしてもらう方法を一緒に考えようというのがテーマです。
大きなテーマは多様なゴルファーに合わせた柔軟な対応
(写真はゴルフ環境についてプレゼンするランド・ジェリス氏)
初日は「ゴルフ施設の生産性改善」をテーマに、アメリカ、ヨーロッパ、オーストラリアのゴルフ場や施設についてのお勉強をしました。
アメリカのゴルフ場の問題は、水資源の確保でした。
特に乾燥地帯のカリフォルニア州やアリゾナ州などでは、緑の芝生を維持するために毎日スプリンクラーでの散水が欠かせません。
強い芝生の開発・研究をUSGAがバックアップしています。
(画像はUSGAシンポジウムでの資料より引用)
また、コースメンテナンスにおいては芝の性能や状態を検知するセンサーや、その土壌センサーから得たデータをビッグデータとして活用している例を紹介。
効率よく、また正確な芝の管理ができるようにロボットを導入するのは時間の問題だとし、早めに移行することのメリットを訴求していました。
コース自体のイノベーションとしては、1980〜1990年代にゴルフ場の建設ブームが起こり、2008年からはコース改修のニーズが高まっています。
その際にプレーヤーの満足度を下げることなく、バンカーの縮小や芝生面積の最適化などを行うことで、メンテナンスにかかるコストを抑えることができ、持続可能性が高まるということも指摘されました。
ゴルファー体験の向上とプレイヤー増加について
(写真は矢野経済研究所の三石茂樹氏)
2日目の午前中のセッションではゴルファーの調査とプレイヤー増加への対策を考えました。
JGAと矢野経済研究所が共同で行ったアンケート調査「ゴルファーとノンゴルファーが教えてくれるもの」の結果が興味深かったです。一部を紹介します。
ノンゴルファーは「今までゴルフをしたことはないが、きっかけがあればはじめても良いと思う」「以前ゴルフをしていて今はしていないが、きっかけがあればまたはじめても良いと思う」と回答した人が全体の30%いて、理論上は約3000万人の潜在ゴルファーが存在する
最初に触れるゴルフ体験は打ちっ放し練習場が多いことから、そこで楽しい体験をしてもらい継続的なゴルファーになってもらう施策を講じることが重要であるという話でした。
ゴルファーが重視する項目トップ5
①グリーンの状態
②気象条件
③フェアウェイの容態
④コースでの快適なプレーペース
⑤自宅からコースまでの距離(アクセス時間)
ゴルファーが重視しない項目トップ5
①プロショップの質と品揃え
②オフィシャルハンディキャップの所有
③全ホール2グリーンであること
④クラブメンバーであること
⑤最寄駅からの距離
また、ゴルファーが思っている重要項目と、ゴルフ場が重要だと思っていることにはギャップがあるということも調査からわかりました。
アメリカからの登壇者は、ゴルファー体験の定義として、タッチポイントを13段階に分け、それぞれにゴルファーの満足度を向上させ、リピーターとなってもらうにはどうしたら良いかという分析を展開。
また、スムーズなプレーを促進するためのゴルフ場や競技大会運営側の努力なども紹介していました。
アーバンゴルフのすすめ
日本の、東京は特に、都心部からゴルフ場までがとても遠いですよね。
都市部にゴルフ場が整備されている地域の例と、そのゴルフ環境が周囲に及ぼす好影響について紹介していました。
東京都心部から1時間以内にアクセスできるゴルフ場は数カ所ありますが、そのほとんどが高額な会員権を所有していないとプレーできないコースです。
18ホールきっちりなくても、河川敷やショートコースがゴルファーを救う救世主になりえます。
ゴルファーや地元の人々への門戸開放がされているショートコースでは、便利で手軽な価格の屋外スポーツとして受け入れられ、家族で楽しめるレクリエーションの場になります。
ゴルフコースは都市コミュニティに利益をもたらすのです。
まとめ:多様なゴルファーに合わせた柔軟なソリューションを
最後には代表4名の登壇者がディスカッション(MCの隣からエドウィン・ロアルド氏、フェデリコ・バルデス・アダム氏、GDO石坂信也氏、マシュー・プリングル氏)。
ゴルフ人口を増やすには、ゴルフ場を、ゴルフをもっと身近にすることが大切であるというのが全員が口にした意見。
ゴルフじゃなくてもいい、「遊び場(Place to Play)」にすることが大事だというのは石坂氏。
忙しい現代人は18ホール回っている時間がありません。
プレーするホールは18である必要も、9である必要もありません。都市の中にゴルフ場があって、5ホールでも、3ホールでも遊べたら良いのです。
また、多様性(ダイバーシティ)に対応したゴルフスタイルやイベントを広げるべきだという意見がありました。
たとえば幼少期からゴルフをしていた人が、結婚や出産を機にゴルフから離れてしまうのはよく聞く話です。
託児サービスの展開や、ジュニアプログラムが充実したら家族でもゴルフをすることができます。
シンポジウムでは、2日間に渡る長い勉強会でゴルフにまつわる近況を把握することになりましたが、解決の答えはありません。
登壇者は議論し続けることが大切だとして会を締めくくりました。
せっかくUSGAが日本で開催してくれた学びの機会。イノベーションを1回で終わらせてはいけませんね。
オリンピックでのゴルフなどを語った丸山茂樹氏と室伏広治氏のトークショーは以下のリンクから見ることができます。