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「ピン型」と呼ばれるパター、ANSER (アンサー)の歴史

世界のゴルフクラブ史において最も有名なクラブと言っていい、PING ANSER(ピン アンサー)。

名器スコッツデールからオールドアンサーまでのお話です。

L字型パターが難しい3つの理由

1960年代のパターは、アイアンの形状を模したL字型が主流でした。と言うより、当時はL字かT字くらいしかありませんでした。

L字型にはラインに対して構えやすいメリットがある反面、いくつかデメリットがありました。

1つ目は、単一の金属を加工しているだけなので芯が小さくてボールを適確に芯でとらえにくいことで距離感が合わせにくいこと。

2つ目は、ネック部分の強度を確保するために金属が肉厚になることで、重心がネック寄りの手前になり、ボールをさらにとらえにくいこと。

3つ目は、パターヘッドとネックの接続部分となる左端がほぼストレートネックになっているため、アドレスでボールが左に寄り、ストロークをする時にフェースの開閉ローテーション(画像の赤いライン)を使う打ち方になるのですが、これがなかなか難しくて、ミスヒットすると左右にブレやすく方向性が定まりにくいこと。

L字型パターは以上のことを理解した上で、高いヒッテング技術を持ってしないとなかなか厄介なクラブなのです。

かつてのパターの名手であるベン・クレンショー選手やフィル・ミケルソン選手もL字型パターの愛用者でした。

アンサーの3つの発明

パターが得意ではなかったと言われているカーステン・ソルハイム氏は、L字型パターの3つの問題解決に着手します。

1.芯の面積の最大化
2.芯をパターヘッドの中心へ配置
3.ストレートストロークでヒッテングできる構造

従来型のL字型は、芯の面積が1円玉の大きさ未満でしたので、ストロークを行いながら、常に芯に当てることが難しかったのです。

1と2は初代パターの「1-A」で着想した「ヒール・トウ・バランス」を応用し、パターヘッドの両端に重心を配置して、芯の背面を肉薄にくり抜くことで芯の面積を拡張して問題を解決しました。
 
つまり、ミスストロークの際に中心部分でヒッティングできなかった状況でもボールが真っすぐに転がる構造になりました。

また見た目(写真)からも、どの部分が芯なのかをわかりやすくすることで、安心してストロークを行えるようにデザインされていることも斬新な発想でした。

そもそもなぜ芯でヒッティングしないといけないかと言うと……

1.転がる距離……同じストローク幅でも芯で打つことと芯以外の場所で打つことでは転がる距離が大きく異なります。

例えば、10メートルの距離だと2〜3メートルはショートするくらい違いがあります。これでは3パットする確率がすごく高くなります。

2.方向性……芯以外で打つとフェース面がブレてしまい、狙った方向へ転がすことができません。

これらの理由により、良いパッティングをするにはパターヘッドの芯に当ててストロークすることが必要不可欠な要素であることをお伝えしておきます。

そして最後の3ですが、写真を見ていただくとシャフトからクランク状にネックを加工していることにより、ボールを手元寄りに置けるようになりました。 

さらにパターヘッドから直角にネックを立ち上げることで、パターヘッドをストロークする際に発生してしまう、車のワイパーのような弧を描く軌道をなるべく直線に近い軌道に修正して動かすことができるようになりました。

圧倒的にクラブヘッドの直進性が向上した瞬間でした。

ドライバーやアイアンに比べてボールに当たった時の衝撃が少ないパターだからこそ、このような複雑な形状でも成立したのです。

さらに従来のパターでは軟鉄とメッキを使用した硬い金属素材が一般的でしたが、ボールの進化に伴い、ピンではマンガンブロンズを使用し、絶妙な距離感が要求されるパッティングにおいて、ソフトな打感を実現できたことも重要な要素でした。

比重の重いマンガンを含む金属は酸化しやすく、パターヘッドが黒く変色することで構えた時に太陽光が反射しにくいことも付け加えておきます。

銀色に輝くメッキ素材では、重要なパッティングで光が反射してしまい集中力に欠けてしまうなどの問題がよく聞かれる話でした。

これらのコンセプトは、ソルハイム氏が掲げた「3パット撲滅」に大きく寄与し、ゴルフクラブの進化において多大な影響を与えることになりました。

“ANSER”の名付け親は誰?

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1966年に1-Aパターに続くピンパターはアリゾナに移転した後に完成しましたが、商品名を付ける際に悩んでしまった有名な話をご紹介します。

ソルハイム氏は 良い名前が思い浮かばずにいると、妻ルイーズさんに「答え(answer(アンサー)」と付けるのはどうかとアドバイスされました。

このパターが難しいパッティングの“答え”になるという意味合いでしょう。

しかし名前を刻みたかった場所、背面バックフェース下部1センチ×3センチに満たないとても小さなスペースは、「ANSWER」の6文字分を刻印するには狭過ぎました。

一晩悩んでいたが答えが出ずじまい。

翌朝ルイーズさんからのさらなるアドバイス「Wを抜いても『アンサー』の発音の響きは変わらない」と言われ、「ANSER」と名付けることにしたそうです。

これによりピン ANSERが誕生しました。

命名って難しいですよね。ルイーズさんナイスアシストでした。

現代でもこのパターの形状を表現する時に「ピン型」という呼称が使用されることが、この発明の偉大さを物語っています。

写真の初期スコッティ・キャメロン クラシックIは、ピン型パターの代表的な形状を模していて、名器として記憶されています(保管が悪く錆びてしまいました)。

刻印の変遷

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PING ANSERは、製造された年代で工場が違います。急速な事業拡大で工場が移転したようです。

1966年~1968年は、アリゾナ州スコッツデール1345(私書箱)。

数種類のパターの形状がありましたが、1969年のマスターズでジョージ・アーチャー選手がANSERを使用し優勝したことにより爆発的な人気が出ました。

背面の刻印に当時の会社の住所が記載されていてたことで、この時期のANSERは「スコッツデール」と呼ばれています。

いまでも語り継がれる名器です。バブル期ではソールにシリアル番号が刻印された物だと1本100万円以上していました。

プロの使用率もグングン増えていき、ジャック・ニクラウス選手もL字型からスコッツデールに変更した時期もあり、ピンパターの登場により、ゴルフ界にパター革命が起きた時期でした。
          
スコッツデールは特に、ANSERシリーズの中では中段のフランジに膨らみがあることが特徴で、意匠が美しいと思います。多くのパタークラフトマンがこの形状を模しています。

ソールにスリットを入れることで「ピーン」と音が出る仕掛けになっていることは、あまりにも有名です。ヒットの要素が詰まっているアイデア満載のパターです。まさに天才です。

1971年に工場の住所がスコッツデールから隣町のフェニックス85029(郵便番号=ジップコード)へ移転すると、背面の刻印が「KARSTEN CO.」に変わり、KARSTEN MANUFACTURING CORPORATIONが設立されると、「KARSTEN MFG CO.」と刻印が変化していきました。

この時代のANSERはデールヘッドと呼ばれました。

工場の住所もジップコードが85029→85020→85068と移転して行くことになります。

ビンテージパターとしては、古い年代の順に価値が高いと言われています。

2016年に発売された50周年記念モデルもスコッツデールを忠実に再現した形状で、日本では100本限定で販売されていました

もしPING ANSERをお持ちだったり、中古ショップで見つけた時は、この刻印に注意していただくと掘り出し物があるかもしれませんね。

古くてもなお価値を見出せるゴルフクラブはそうそうないです。

長い記事をお読みいただきまして、ありがとうございました!