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Taddy Bear
夢を追い求めたい時の読むゴルフ〜『17番グリーンの奇跡』〜
ある日、パットのラインが白い線になってはっきり見えたら?
そんな、すべてのゴルファーが望む奇跡から始まるフィクションです。
これを読んだからといってゴルフが上手くなるわけではありません。でも、ちょっと心が温まって、ゴルフがもう少し好きになれる小説です。
運命の扉となった17番グリーンのパット
場所はシカゴ北郊外のウィネトカ。季節は真冬、12月25日のクリスマス。
誰もいないクリークビュー・カントリークラブの17番ホールに主人公のトラビス・マキンリーがティーアップするところから物語は始まります。
トラビスは53歳。
大学生の頃はツアープロを目指せるほどの腕前。しかしプロの道には進まず広告代理店へ就職。
以後、この歳まで勤めてきたけれど、今は解雇寸前。最愛の妻、セアラともぎこちない関係が続いているけれど、3人の子供たちとは親密な関係。
そんな、日常的な憂鬱な気分を一変させたのが17番グリーンでした。
なんと、これまでのゴルフ人生の中で見えなかったパットのラインが初めて見えたのです。
それも、はっきりと白い線のように。
しかし、これが17番グリーンの奇跡ではありませんでした。
イーグルとしたこのホールは、これまでとまったく違った人生の、運命の扉だったのです……。
トラビスは失業や妻との離婚問題を抱えながらもシニアツアーのクオリファイに挑戦、プロ選手となってからUSシニアオープンに出場するまでが、大まかなストーリーです。
キャディのアールはいぶし銀のバイプレーヤー
総ページ数は200ページ弱。中編ですから読み終えるまでそれほど時間はかかりません。
失業や離婚といったシリアスな話も出てきますが、その辺りは明るくサラッと流しており、ドロドロとした描写がないので軽い気分で読み進めることができます。
むしろ、ゴルフ描写だけでは退屈になりがちなので、物語の横軸に色を添えているといったところでしょうか。
逆に、クオリファイやシニアツアーはテレビ画面から伝わらない部分が描かれていてリアリティがあります。
初版は1999年1月。
舞台はいささか古いのですが、それでもイサオ・アオキ(青木功)が隣の個室で便器に尻を降ろしている、とか、同伴競技者がジャック・二クラスとレイモンド・フロイドとか、誰もが知っている選手が登場するので違和感はそれほどないでしょう。
この物語で脇を支えているのが兵役を努め終えたアール・フィールダー。
クオリファイでトラビスと一緒に回った170センチ、100キロの体躯を持つ黒人で、トラビスのクオリファイ突破を知るとキャディの契約を交わします。
トラビスは後に、アールが株式投資で100万ドル以上の資産を持っていることを知りますが、その主な株がマイクロソフトであるところに時代を感じさせますね。
ともかく、アールは修羅場をくぐってきた経験からトラビスを叱咤激励、時にはウィットのある会話をして物語にスパイスを与えています。
やはり、魅力的なバイプレーヤーがいると物語はしっかりした骨格ができるという典型のような人物です。
クライマックスはペブルビーチの17番
著者はジェイムズ・パタースンとピーター・ドゥ・ヤング。ジェイムズ・パタースンは日本でもよく知られている作家ですね。
FBIの元司法心理学者、アレックス・クロスが主人公のサスペンスはシリーズ化されており、日本でも処女作の『ナッシュビルの殺し屋』やシリーズ6作目の『闇に薔薇』などが出版されています。
ちなみにアレックス・クロスシリーズだけで全95作。寅さんもびっくりの長寿シリーズ作品です。
ピーター・ドゥ・ヤングは、ニューヨーク・タイムズマガジンやナショナル・ジオグラフィックで執筆していたスポーツライター。
そのコラムが、当時ベストセラー作家に上り詰めたパタースンの目に止まり、共著となりました。
ちなみに2人とも広告代理店勤務の経験があります。
物語の中で広告代理店がこき下ろされるワケ、合点がいきました。なお、この小説はアメリカでかなりヒットしたらしく、テレビドラマも制作されています。
物語のクライマックスはペブルビーチ・ゴルフリンクスの17番ホール、パー3。ヒョウタン型のグリーンの向こうは海。
もし、テレビドラマが物語に忠実であったならば多少、荒い作りでも見てみたい気、してきませんか?
続編はオーガスタとセント・アンドリュース
続編も出版されています。
『Miracle at Augusta』は2015年に出版されました。
トラビスの1年後の物語で、舞台はタイトルにもなっているオーガスタ・ナショナル・ゴルフクラブ。
残念ながら、翻訳本は日本で出版されていません。2021年には『Miracle at St.Andrews』が発売予定。
こちらも、日本では出版される予定はありません。
ゴルフ小説でこれほど続編が執筆されるのは珍しいケースといえるでしょう。それだけ『17番グリーンの奇跡』が優れた作品だったという証ですね。
しかし、シリーズ第1作目となった本書も絶版。わずかに中古本だけが流通しています。
第1作目の出版社、PHP研究所がシリーズ全作、翻訳本出してくれるとうれしいんですけれど。
日本におけるゴルフの活字は大半がレッスン。
英米でもレッスン本は大活況ですが、ゴルフに関する小説や紀行文、ノンフィクションなども数多く出版されています。
ゴルフ文化の違いと言ってしまえばそれまでのこと。
しかし、レッスン以外のゴルフ書籍を読めば、ゴルフに対する知識や考え方の幅は確実に広がります。
蓄積された知識は必ず、あなたのゴルフライフを豊かにするでしょう。